3.4, 6 見せて対話し繋がる心『海岸通団地物語』吉田町画廊へ


昨年12月にフォーラム南太田での上映&トークを行った「海岸通団地物語~そして、女たちの人生はつづく~」の杉本曉子監督が今度は吉田町画廊にて上映会を行う。主人公として登場する女性画家の縁の場所でもある吉田町画廊は、吉田町アート&ジャズの拠点のひとつとして名を馳せる場所だ。

この映画の魅力は2つある。

ひとつは、懐かしく、ほんのりあたたかい団地暮らしを疑似体験できるところ。

もうひとつは、おそらく杉本監督自身だろう。上映会のたびに観客と対話を重ねる。「次はうちの地区でも」と話がつながる。会場内から制作を手伝いた いという声があがる。数日後には一緒に団地に出向き撮影している。監督自身がまっすぐな姿勢ですべてに向き合う姿への共感が、小さなさざ波のようにじわじ わと広がっている。まさに自主制作・自主上映の新たな道を切り開いているかのようだ。

「海岸通団地物語~そして、女たちの人生はつづく~」
in 吉田町画廊×吉田町日本画100人展

2010年3月4日(木)&3月6日(土)
両日ともに19:45~21:00
会場 吉田町画廊(神奈川県横浜市中区吉田町5-14)
料金 1,000円
問合せ 045-252-7240(吉田町画廊 片桐)

詳細はこちら(吉田町アート&ジャズ)

「海岸通団地‘上映’物語」ブログ

奮闘中の新人女性監督に会場からの声が止まらない「海岸通団地物語」杉本曉子監督トーク

12月23日、フォーラム南太田での上映会「海岸通団地物語〜そして、女たちの人生は続く」上映後の杉本曉子監督トークです。海岸通団地は、みなとみらいのすぐ近く、都会の中にぽつんと取り残されたような光景は一度目にすると忘れられない場所です。30名ほどの参加者には、団地のことを気にかけていた方、よく知っている方も多く、会場からの発言が止まらないトークは大いに盛り上がりました。

「海岸通団地物語〜そして、女たちの人生は続く」杉本曉子監督トーク
司会:TAEZ!小園弥生さん

小園:映画制作のきっかけは?

杉本:映像制作会社を辞めて5年、派遣の仕事をしながら、また何か撮りたいと思って横浜を歩いていると、以前から気になっていた団地に目がとまり、撮り始め通うようになりました。最初は警戒されたが少しずつ住民と打ち解け、映画を楽しみにしてもらえるようになりました。昼は派遣の仕事、夜はバイト、休日は撮影。夏の外の撮影では熱射病にもなりました。今年の山形国際映画祭にも応募しましたが落選。でもその後10~11月のヨコハマ国際映像祭の国内長編部門として上映され、そのときは団地の方も見に来てくれました。上映をきっかけに主人公の画家、平山さんの水彩画は映像祭新港ピア会場のラボスペースで展示もされました。

会場:大晦日はたくさんのカメラが回っていたようですが。

杉本:4人体制でした。私は平山さん宅、スタッフ3人は打越さん宅(テレビが故障して上3分の1が映らない家の人)、外で花火の映像と音をそれぞれ担当しました。

会場:撮影は誰かの紹介で始められたのか。

杉本:取材はじめは、団地の管理事務所で断られ、市に電話すると都市機構といわれ、そこともうまくいかず、最後にヨコハマ経済新聞で自治会長でもある平山さんが出ていて、そこに連絡しました。

会場:団地の立替反対運動という意味にもなりそうだが

杉本:立替反対という意味ではなく、撮影していく中で、すんでいる人に惹かれていきました。それを表現しています。

小園:団地の皆さんに見せたときは?

杉本:みんな盛り上がったが、主人公平山さんだけは、こんなに私が映っているなんてと言われ、数時間話合いました。最終的には、立替のことを人の魅力を通じて伝えたい、という気持ちをわかってくれました。平山さんも画家で同じ表現者だから、表現したいという強い気持ちをわかってくれたのだと思います。私は、映像の世界にまた戻りたい、その最後のチャンスかも、って思って映画を作りました。すべての責任を負うつもりで作りましたが、一方で出演者の皆さんを傷つけたくない、満足してもらいたい、という気持ちも強かったので粘り強く説得しました。その上映が一番緊張し、胃が痛くなりました。それでも団地の皆さんに見せ、向かい合いました。

会場:幼い頃からの映画監督の夢だそうですが、第1回の監督作品の感触は。

杉本:実は昨日も映画美学校で強く批判されました。外からの窓のカットだけはよかったよね、とも言われ(笑)。でも今日はこれだけの方に見てもらえて、とても嬉しいです。団地の皆さんとの関係性も続いています。実は今年の大晦日も撮りに行くんです。まだ家を撮らせてくれないチョコレート(ゴディバ)をくれた男性も今年は何かしら協力してくれると言って下さってとても楽しみです。

会場:主人公の平山さんの知り合いです。個展に行き、お家にも行き、凛としてて素敵な人と思っていた。こんな人生があったとは、とびっくりした。かなりオープンに表現されているので覚悟をもって出演されたと思いました。人の人生を他人の都合で切り取るわけにはいかないと思うので、これからも平山さんの応援を。

杉本:どこのだれかもわからない人に、ここまで撮らせてくれる平山さんの懐の大きさも感じています。命がけで作らなければと思いました。私はもう失うものはない、と思っていますし、制作会社時代には自分が気取っていては撮れないと学びました。その気持ちで取材対象にも向かいました。

会場:写真家の森日出男さんを映した理由は。

杉本:外側の関係から団地を撮る森さんのノスタルジー感と、内側から撮る自分と対照させるため、重要なキーパーソンとして撮りました。

会場:友人が海岸通団地に住んでいますが、なぜあの女性3人を撮ったのか。

杉本:一人で団地で暮らす女性にたいしてのイメージを変えたかった。凛としてこびない姿のある女性たちです。

会場:下からのアングルが多い。見る人にとっては少しよくない。工夫が必要では。監督自身がまだ正面きって向かい合えてないのでは。

杉本:ありがとうございます。制作会社勤務の時からの癖で下に構えてしまいます。また目を見て話を聞きたいから、胸の前で構えたり、置きで撮ったりしてしまいます。人手が足りないのも大きな原因で、協力者も募集中です。ぜひ撮影、制作にご協力ください。

会場:元中区職員です。団地については、人の増減、建物が立つ、無くなるという動きとしかとらえてなかった。団地の人の暮らしを初めて見た。

小園:団地の人はみな立替終わっても住めるのか。

杉本:希望すれば住めるが、家賃問題もあります。家賃が高くなりすぎないよう、町内会でも交渉を進めています。

会場:誰もこの団地立替を知らない、あまり問題を大きくしないよう、行政は隠しているのでは。

杉本:耐震構造がよくなる、新しい建物になる、はみなさんOKで、家賃問題だけが大きいようです。私は、あの古い団地自体が魅力的だと思うのですが。森日出男さんには「横浜の人は、新しいこと変わることをすぐに受け入れる」と聞きましたが、その通りかもしれません。

会場:都橋で週末カフェバーをやっています。あそこも古くて素敵です。古いもの好きもいますよ。

杉本:そういえば横浜の森ビル建設は中断しているようですね、住民のみなさんは鉄槌食らったと言っています(笑)。

会場:倉庫は1棟だけ残すって聞きました。

杉本:そうですか。そうそう道路拡張で木を切ってしまうことに住民が反対し、都市機構も同意したこともあったそうです。この団地は、周辺の開発から忘れられたような風景と住民が言います。私もそう思います。

会場:続編の内容は。

杉本:弁天、伊勢佐木の歴史は残っているが、海岸通の歴史はあまりないんです。そこを紐解きたいなと。団地は2年後にはマンションになります。最後は引越しを終えてそこでの大晦日も撮りたいです。

会場:工事遅れているから2年で終わるかどうか。

会場:立替反対運動はなかったのか。

杉本:反対運動が落ち着いた頃に撮影を始めました。今は家賃の値下運動をしています。年齢によって半額にならない人もいて生活が苦しくなるのは目に見えているんです。

会場:男性バージョンの番外編を。

杉本:そうですね。どんな人もドラマをもっていますね。それが好きです。私自身が惹かれるものを撮っていますが、濃密なドラマのある夫婦も素敵でした。

小園:撮影スタッフの方はどう思っていますか。

スタッフ(守):杉本さんは100回以上団地に通っているけど、最初はどこがいいんだろうと思っていました。現在は試写や上映会に毎回参加しています。今回はどんな人が来るのか、どきどきしながら来ました。

会場:面白かったです。辛口なモダン画家。岩手の羊羹をくれる横浜のおばさんの家でかかる歌謡曲。対比が楽しく。上3分の1が映らないテレビが最後に見れてよかった。

会場:みなとみらいに行くたびに気になっていた団地。20代に公団住宅に3年住んだ。半永久的に住む人の人生がつまっている団地の映画でしたね。私があそこに暮らしていたら、と想像しながら見た。

杉本:すべての部屋に表情がある。そこをもっと見せたいです。もっと多くの人の家を撮りたいと思っています。皆さんの感想が私の力になります。あと2年、心が折れそうになってもがんばります。今日は本当にありがとうございました。

12.23「海岸通団地物語~そして、女たちの人生は続く〜」 上映&杉本曉子監督トーク

日 時 12月23日(水・祝) 18:30[上映] 19:45[トーク]

会 場 フォーラム南太田 音楽室

京浜急行線南太田駅徒歩3分、横浜市営地下鉄吉野町駅徒歩7分

〒232-0006 横浜市南区南太田1丁目7-20  電話045-714-5911

http://www.women.city.yokohama.jp/find-from-c/c-minami/

参加費 1000円

主 催 TAEZ!

問合せ TAEZ! 事務局 taez.office★gmail.com  (★→@)

〒231-0021 横浜市中区日本大通34 ZAIM本館301号室

https://takearteazy.wordpress.com/

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「女三十歳、団地に萌える」

2008年大晦日。横浜のみなとみらいにある団地の中で住民たちと一緒に「私」は新しい年をむかえようとしていた。この街では午前0時になると除夜の鐘のかわりに湾内の船がいっせいに汽笛を鳴らすらしい。きらびやかなランドマークタワーと、周囲のド派手な夜景が目を引く中、ぽつんとわすれられたように存在する団地がある。

「あの箱の中には一体どんな暮らしが詰まっているのだろう?」ちょっとした好奇心から、29歳ハケンOLの「私」は、週末ビデオカメラを片手に団地へ通うようになった。最愛の息子を亡くした水彩画家の女性。荷物の山に埋もれて1人暮らす女性。ケンカしながらも愛し合う寝たきりの夫と妻。そこには窓の数だけ異なる「暮らし」があった。

2009年1月からはじまる取り壊し工事を目前に、ノスタルジーに浸る団地の外の人たち。そんな彼らを横目にたんたんと生活をつづける団地の住民たち。住民たちと親しくなってゆくうち、「私」の団地に対する目線もまた変化してゆく――そんな、団地と「私」の8ヶ月を描いた作品です。

【作品概要】

監督・撮影・編集・製作/杉本曉子

撮影/久保田雅彦 塩谷里子 守舞子

編集/番園寛也

録音/浅野ヒロシ

挿入歌・エンディングテーマ/中村裕介ROXVOX「横浜市歌ブルースバージョン」

協力/アマノスタジオ Our Planet-TV 映画美学校

(DV/74分)

「ヨコハマ国際映像祭2009コンペティション国内長編作品」上映

【監督紹介】

杉本曉子(すぎもとあきこ)

1979年東京生まれ。大学卒業後、テレビ番組制作会社に勤務。その後数年間、映像業界から離れて異業種をいくつか経験した後ハケンのOLとして働くかたわらシナリオを学ぶ。2008年6月から約10ヶ月間、週末ビデオカメラを片手に横浜にある海岸通団地に通って個人制作した今回の作品が初の長編作品。2年半後の立て替えまで追い続けるため、現在も撮影中である。

上映までの道のりをブログで更新中  http://ameblo.jp/yokohamadanchi-film/

ヨコハマ国際映像祭上映レビュー https://takearteazy.wordpress.com/2009/11/15/danchimonogatari-2/

リーフレットダウンロード DanchiMinamiohta-leaf

「海岸通団地物語」上映会告知が神奈川新聞に載りました。 http://news.kanaloco.jp/localnews/article/0912210009/

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大岡川アートプロジェクト「光のぷろむなぁど」

https://takearteazy.wordpress.com/2009/12/04/ohokagawahikari/

フォーラム南太田の前を流れる大岡川を舞台に、ちょうど上映会の前後(12月19日から23日)にアートイベントが開催中です。灯りのオブジェによる「光の回廊」や橋桁のライトアップ、参加アーティストの作品を巡るツアー、光のコンサート、キャンドルナイトなどさまざまな催しが行われます。空気も清澄な季節に暖かい光の遊歩道を散策してはいかが?

公式サイト http://ohokagawaart.web.fc2.com/

スタッフブログ http://ohokagawaart.blog45.fc2.com/

レポート https://takearteazy.wordpress.com/2009/12/21/ohokagawaart/

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そして、女たちのドキュメンタリーはつづく

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杉本暁子監督

「海岸通団地物語~そして、女たちの人生はつづく~」を見た。CREAM(ヨコハマ国際映像祭2009)コンペティション国内長編作品に選ばれた(残念ながら入賞は逃したが・・)ヴィデオ映像、奇をてらわない素朴な表現が好感の持てるドキュメンタリーだ。

高層ビルが建ち並びきらびやかなみなとみらい地区に隣接して建つ古い団地、物語はその団地に住む女性画家の引越しの風景、彼女の語りから始まる。そして、監督の杉本曉子さんが何故この映画を撮ることになったか、最初は住民に警戒されながら次第にとけ込んでゆく様子が描かれる。

最初見ていて、もっとディテールが欲しいと思った。壁のシミとか、使い込んだ家具とか、そういうもの言わず静だが雄弁な「物たち」の質感が見たいと思った。そう思っていたら後半に、老婦人が料理する手元、大根の皮むきのクローズアップや半分しか映らないテレビ受像機とかたくさん登場してきた。

上映後のトークで彼女自身が明かしていたが、当初はどんな映画にしようかかなり迷っていたとのことだった。テーマが「団地」から「人」にシフトしていき、息づかいが聞こえてくる。自分自身の生き様と重なってきつつある「被写体」にカメラはためらいながらも執拗に疑問をぶつける。

トークで蔭山ヅルさんが巧みに杉本さんの胸の内を引き出す、さすがにうまい。本当は昔から映画を作りたかったのに、わざわざ遠回りしてやっとここにきたこと。そして、「映像の暴力」について監督に迫った。「団地マニア」と思われて警戒されながら通い続けて、プレゼントをもらうまでに受け入れられた彼女だが、最後の編集段階になって「ノー」を言われる、やはり立ち入られたくないところにまでカメラは入らざるを得ないのか。

杉本監督は明るく答える。「そういう時は説得します。」「撮られる側の立場もありますが、私の立場もあります。私はどうしても撮りたいのだから何時間かけても説得します。絶対いい作品になりますからって。」ストレートさはあらゆるモヤモヤを晴れさせる最大の力だろう。

映画に登場した画家の平山さんの作品が、不思議な縁でCREAMの会場(新港ピアのラボスペース)を飾っているらしい。蔭山さんのプロデュースだ。杉本さんがこれからも追い続けたいと考えている平山さんが、「創造都市」横浜でどこへ向かうのか僕も見てみたい。

(高橋 晃)

>作品詳細 https://takearteazy.wordpress.com/2009/10/31/danchimonogatari/

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