第9回ヨコハマトリエンナーレ2011 トリエンナーレ学校「ヨコトリ2011見どころ講座 アーティスト編2」

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第9回トリエンナーレ学校の様子

日時:2011年5月18日(水)19:00-20:30
会場:ヨコハマ創造都市センター(YCC)3階スペース
主催:横浜トリエンナーレ組織委員会
講師:ジュン・グエン=ハツシバ(ヨコハマトリエンナーレ2011参加作家)、天野太郎(ヨコハマトリエンナーレ2011キュレトリアル・チーム・ヘッド/横浜美術館主席学芸員)

4月13日に続く「ヨコトリ2011見どころ講座 アーティスト編」の第2回目で参加作家のひとりジュン・グエン=ハツシバ氏が登場。作家が自ら、制作する作品について解説し制作サポーターを募集するということで、興味を示した多くのサポーターが集まり会場はいつもにも増して熱気を帯びていた。作家に会える、作家と対話できる、作品制作に関わることができる、これが現代美術の大きな魅力のひとつだろう。そしてこのようなチャンスを設けているのがトリエンナーレ学校の特長だ。

初めに天野氏からジュン・グエン=ハツシバ氏について簡単な紹介があった。彼は横浜トリエンナーレ2001と2007年横浜美術館での企画展「水の情景-モネ、大観から現代まで」にも作品を出展しており横浜に縁がある。サポーターに対して「彼はみなさんに参加してもらって作品を作ります。作品制作に関わる類稀な機会ですからぜひ参加してほしい」と呼びかけがあった。

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作家ジュン・グエン=ハツシバ氏

【ジュン・グエン=ハツシバ Jun Nguyen-Hatsushiba】
1968年、日本人の母とベトナム人の父との間に東京で生まれた。幼少時代を日本で過ごし、美術教育をアメリカ・シカゴで受け、現在はベトナム・ホーチミンを拠点に制作活動を行い、多くの作品が世界各地で展示されている。








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過去の作品を解説するハツシバ氏

【過去の作品】
これまでにメモリアルプロジェクトとして数々の作品を発表している。戦争・公害・国際化・経済発展・社会変化などその土地で起こったこと、その土地に住む人々の記憶と揺れる心情、不安や希望などを表した興味深い映像作品が多い。インドシナ海、沖縄や熊本の海、メコン川などで撮影された作品が紹介された。




【ヨコハマトリエンナーレ2011の作品】
《Breathing is Free: JAPAN, Hopes & Recovery》

これは2007年に開始したランニング・ドローイング・プロジェクトで、GPSを身に着けて走りながら地図上に絵を描く。かつて、絵に必要な線を描くために道ではないところ、浅瀬の川や茂みの中などにも入り込んだ経験がある。同プロジェクトの過去の作品タイトルに付けられた数字12,756.3 は地球の直径12,756.3 Km を示す。ある場所から反対側へ移動する、あるいは全く異なる状況へ移行することを象徴している。走りながら、体力的窮地に追いやることで難民(ヨコハマトリエンナーレ2011の作品においては大震災の被災者と捉えていいだろう)の問題を身体的に体験して捉え、問題と向き合う狙いがある。難民の境遇を理解し思いやりながら制作する精神性の深いものである。

ジュン・グエン=ハツシバ氏は、「今年2月に横浜をリサーチしに来訪した際は菊の花をイメージして作品の構想を練っていたが、3月11日に東日本大震災が発生して甚大な被害を負ったことを知り、日本で何が起きているのか、被災者のことを考えながらホーチミンでGPSを付けて地図上に桜の花を描くように走り始めた。桜は人生の節目の季節に花を咲かせる。人々は暖かくなる春を、花見を楽しみにする。桜は大きな木に育つ。桜は日本人にとって思い入れの多い木である。エネルギーをアート作品にして被災者を勇気付けたい」と今回の作品に掛ける熱意を示した。

ランニング・ドローイング・プロジェクト全体でこれまでに約1,000Km走破した。今回横浜での目標距離は約1,000Km。残り約10,000Kmとして、将来さまざまな街を走り合計12,756.3Kmに到達させたいとのこと。また、本プロジェクトは、メモリアルプロジェクトとして継続しているものの一部でもある。

ホーチミンと横浜でそれぞれ協力ランナーにGPSを装着して街を走ってもらい、そのデータをGoogle Earth上に展開する。走った軌跡で桜の花を描く。ホーチミンの河川を桜の幹に見立て、ホーチミンの桜の花と横浜の桜の花をあわせて桜の木を完成させ映像作品にする予定。

【作品制作サポーター募集】
GPSを身に付けて作家が指定したルートに沿って街を移動してくれるサポーターを募集中。走者、写真記録係、ナビゲーターの3人一組で実施。走る速度は自由。現在17ルートを決定し開始しているが、随時ルートを増やしサポーターを募集予定。詳しくは以下を参照、お問い合わせを。

■お申込み方法・参加要項の詳細 ※必ずこちらを読んでからご応募を。
http://yokotorisup.com/get-involved/2011/05/news-99.html

■サポーター活動・申し込み
横浜トリエンナーレサポーター事務局(平日11:00-19:00)
TEL&FAX: 045-325-8654 Email: artist-support@yokotorisup.com

【参考】
以下に2002年以降、日本で開催されたジュン・グエン=ハツシバ氏の個展の一部を紹介しておく。

■2002年 ミズマアートギャラリー
“Memorial Project Minamata: Neither Either nor Neither – A Love Story “

■2004年 森美術館 
MAM プロジェクト002
 
■2007年 ミズマアートギャラリー
「The Ground, the Root, and the Air (グラウンド、ルーツ、エアー)」

■2010年 ミズマアートギャラリー
「Thank you ありがとう Cam on」

レポート:山岸泉 写真:はしもとのりこ

ヨコハマトリエンナーレ2011 第7回トリエンナーレ学校「ヨコトリ2011見どころ講座 アーティスト編1」

日時:2011年4月13日(水)19:00-20:30
会場:ヨコハマ創造都市センター(YCC)3階スペース
主催:横浜トリエンナーレ組織委員会
講師:天野太郎(ヨコハマトリエンナーレ2011キュレトリアル・チーム・ヘッド/横浜美術館主席学芸員)

3月11日に横浜でヨコハマトリエンナーレ2011の記者会見があり、約半数の参加アーティストが発表されたのを受け、今回から数回に渡ってトリエンナーレ学校の中でアーティストや作品についての紹介が行われることになった。今回はその第1回目。初めての参加者もいることから、横浜トリエンナーレの背景や概要も含めた総論が行われた。

*「横浜トリエンナーレ」は総称。2011は親しみを込めて「ヨコハマトリエンナーレ2011」とした。

【横浜トリエンナーレの位置づけ】
横浜市は2004年に「クリエイティブシティ・ヨコハマ」政策を開始。創造性豊かな街づくりを目指すことで都市の活力を高めようという取り組み。横浜トリエンナーレは文化芸術創造都市・横浜の形成に向けたリーディング事業として位置づけられる。また、ヨコハマトリエンナーレ2011では創造界隈拠点のひとつ BankART Studio NYK が主会場の中に含まれている。

【過去3回の横浜トリエンナーレと2011の違い】
過去3回の横浜トリエンナーレは主催者に国際交流基金が加わっていたが、ヨコハマトリエンナーレ2011では行政刷新によって抜け、横浜市が主導することになった。また、毎回主会場が変わっていたが、2011では初めて横浜美術館が主会場となり、今後も主会場のひとつになっていくであろう。10年目の節目となる今回は、「みる、そだてる、つながる」の理念のもと、各種プログラムを展開する予定。東日本大震災の発生によって開催が再検討されたが、予定通り開催決定。計画停電や放射能に対する反応などさまざまなことが起こる可能性があり、対応を迫られるであろう。打合せのためにヨーロッパで会ってきた参加アーティストの多くは震災や原発の情報をよく得ており、そんな中でも出展に意欲をみせていた。世界中の人々が日本の現状を見守っていることがよくわかった。今こそ文化が持てる力が問いただされるだろう。

【アーティストと作品の紹介】
ヨコハマトリエンナーレ2011のテーマは「OUR MAGIC HOUR -世界はどこまで知ることができるか?-」。科学や論理で把握できない領域に注目し、世界や日常の不思議、魔力や超自然現象、神話、伝説、人間と自然の関係にも言及する。

以下、紹介のあったアーティストと作品。《》内は講座の中で紹介された作品名。

■ウーゴ・ロンディノーネ《moonrise.east, march》
12の月を表すの巨大な頭部の彫刻を横浜美術館屋外で展示。わかりやすい形態だが奥深いところで精霊との親和性を内包させた作品。

■ヘンリック・ホーカンソン《Fallen Forest》
生きている木を使ったインスタレーション。木の影に水やりの仕掛けがあり、展示期間中も成長させていく。

■クリスチャン・マークレー《The Clock》
1分単位に時刻を示す映画のワンシーンを24時間抽出してつなげた映像作品。映画の文脈のシーンと時間の流れとがうまく溶け合っている。

■ジェイムス・リー・バイヤース《Five Points Make a Man》
毎日行う劇場的な作品。本人は1997年没。

■カールステン・ニコライ《autoR》
幾何学模様のユニットを組み合わせて建物の外壁を覆ってデザインする参加型の作品。

■シガリット・ランダウ《DeadSee》
500個のスイカと自分の体をイスラエルの死海に浮かべた映像作品。塩分濃度が高いため死海に30分以上いると浸透圧で脱水し死んでしまう。身体的な痛みや歴史的・民族的記憶を彷彿とさせる。

■ジュン・グエン=ハツシバ《Breathing is Free》
アーティストが走った街の痕跡を残す。GPSで描かれるドローイングとビデオ作品。

■スン・シュン《21克》

■泉太郎《スラングとしての魚の骨》

■田口和奈《失ったものを修復する #2》

主会場である横浜美術館と BankART Studio NYK にビジターセンターを設ける予定であり、サポーターにはそこでビジターへ作品の解説をしてもらいたい。「ヨコトリ2011見どころ講座」はそのための教育プログラム。サポーターはこの講座を聞いて、気に入った作品、見どころ、見逃さないでほしい作品をわかりやすく人に伝えてほしい。そして、うまく人に伝わったときの醍醐味を味わってほしい。

第7回トリエンナーレ学校の講師天野氏とサポーター
第7回トリエンナーレ学校の講師天野氏とサポーター

この講座の目的はまさに、第1回トリエンナーレ学校の中で総合ディレクターの逢坂氏述べたアート・ボランティアの自己実現性を後押しするものだと強く感じた。1時間強の中に盛りだくさんの内容が押し込まれ駆け足の講座ではあったが、少しずつアーティストや作品について繰り返し触れていくことで開幕までに期待が膨らむとともに、サポーター活動のモチベーションも上昇していくに違いない。

アーティストと作品については、一部の作品の写真を載せた3月11日の記者会見の記事「ヨコハマトリエンナーレ2011記者会見その2」も参考にしてほしい。

講座の終わりにサポーター活動についての説明も行われ参加者の募集があった。詳細はサポーターサイトをご覧いただきたい。

レポート:山岸泉 写真:はしもとのりこ

「今なぜ地域とアートなのか?」横浜トリエンナーレ学校 Vol.1 の報告

日時:2010年1月31日(日)16:00-18:00
会場:ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター(YCC)3階
講師:天野太郎(横浜美術館主席学芸員/横浜トリエンナーレサポーター事務局長)

1月31日、横浜トリエンナーレサポーター事務局が主催する「横浜トリエンナーレ学校」の第1回目が YCC にて開催された(TAEZ!が主催する「TAEZ!のトリエンナーレ学校」というものも存在するため区別してね)。

黄金町エリアマネジメントセンター(KAMC)の管轄エリアに横浜トリエンナーレサポーター事務局(小串スタジオ)が置かれたことからも象徴されるように、アートが地域にどう根ざすかについてレクチャーが行われた。以下はレクチャーの概要。中でも、横浜トリエンナーレへの提言の中で、「市民協働をキーワードにしているからには、市民が作っていくトリエンナーレというスキームがなければならない!」との意見は、市民が置いてきぼりにされることなく、市民のためのトリエンナーレ実現に向け、深く心に刻み付けられた。

■地域再生に文化芸術の活用を提言
記憶に新しい昨年の行政刷新会議の事業仕分けでは、文化芸術の予算が削減される見込みだが、政策作りを行政任せにすることなく、アートNPOや企業メセナなどは地域再生に文化芸術を活用しようと積極的に提言を行ったことが紹介された。

JOBANアートライン構想、越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭、混浴温泉世界 別府現代芸術フェスティバルなど、アートを通じて地域と結びつく例があげられた。

■時代の変化とコミュニティ
広井良典氏の『コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書 2009)』を参考に、時代の変化と、人とコミュニティの関わりについて次のような解説があった。

高度経済成長によって地域との結びつきが希薄化し、特に日本は先進諸国の中でも社会的孤立度が高い。しかし、子供と高齢者は地域への土着性が強く、少子高齢化によって高齢者がふえ、地域への関わりが強い人々が増加しつつあることも事実である。また、「職住接近」や「SOHO(Small Office/Home Office)」等の流れの中、人と地域との関わりが相対的にふえ、新たなコミュニティが形成される。

このような地域の中で、アーティストがどのように存在を示していくかが課題となるであろう。

■横浜トリエンナーレへの提言(例)
-市民協働
市民が作っていくトリエンナーレというスキームがなければならない!

-高齢化が進む中で、様々な人々にどうやって会場まで足を運んでもらうか。
神戸のくるくるバスの取り組みが紹介された。

-地域との連携の強化
日常的にコミュニティと対話しながら活動していくために、黄金町に事務局を置いた。 アーティ ストがそこにいて活動すること自体に意義がある。また、市民への認知度のアップや広報も必要。

横浜トリエンナーレサポーターの活動は、「横浜トリエンナーレ2011」のみならず、創造界隈をはじめとした各地の活動に結びつけていく。トリエンナーレ学校も新年度からは、サポーターが企画・運営していくようにしたいと考えている。

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次回予告

横浜トリエンナーレ学校vol.2
震災後のボランティアと美術館阪神~淡路大震災から15年~

講師:河﨑晃一(兵庫県立美術館学芸課長)
日時:2010年2月20日(土)16:00~18:00
会場:ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター 3階
住所:横浜市中区本町6-50-1
TEL:045-221-0325
主催/お問合わせ: 横浜トリエンナーレ・サポーター事務局
Mail:info@yokotorisup.com

横浜の森美術展3

8月23日からよこはま動物の森公園予定地(横浜市緑区三保町)で「横浜の森美術展3」が開催されています。会場は、よこはま動物園ズーラシアの北側で、現在開催中の開国博Y150ヒルサイドエリアに隣接しています。訪れた9月13日、主催のGROUP創造と森の声は、ヒルサイドエリアに出展中で、このヒルサイド会場から森へのアートツアーが行われました。

衛守和佳子「あなたに華を捧ぐ」
衛守和佳子「あなたに華を捧ぐ」

小林弘茂「森口sun」
小林弘茂「森口sun」
近田明奈「コモレビの庭」
近田明奈「コモレビの庭」
クリスチャン・ロスマン「2つの円」
クリスチャン・ロスマン「2つの円」
金森信昭「いし」
金森信昭「いし」

GROUP創造と森の声は、恵まれた自然環境を生かしたアート活動を通して、森の保護の新しいあり方を創造するとともにコミュニティを作ることを目的としています。森に関わる理由のひとつは、単に自然環境問題に取り組むのではなく、現代の生活環境において、以前は身近な存在だった自然が隔絶されたものになりつつあることを危惧し、あらためて自然のエネルギーを検証しようと考えたからです。グループのひとりは、「昔の里山をアートで耕す」という自己テーマを掲げて活動しています。

第3回展となる今回は、去年から継続して展示されている作品に、この夏、新たな作品が加わり、海外作家4名、国内作家13名によるインスタレーション19作品が森の中に点在しています。

去年、チップを蒔いたせいで窒息して根こそぎ倒れていた白樫の大木には、鮮やかな花が描いてたむけられ、同じ場所に眠っていました。森の主が大きな口を開けているかのような作品「森口sun」は、1年の間に歯が抜けてしまったので、入れ歯とインプラントで修復が施されていました。昼間、森の木漏れ日を貯めこんで、夜間発光させる蓄光樹脂でできた植物の作品「コモレビの庭」は増殖し、闇の中でぼぅっと光を放っている証拠写真が添えられていました。

赤いレンズの眼鏡をかけて黄色の板に寝転んで空を見上げる作品は、瞬時に思いもよらぬ赤い森を創造し、人も木々も森の空気までも普段とは異なる別世界へ引き込まれます。動物が見る夢をとらえ、その本質までを凝縮する「夢を取り込むための装置」は、ズーラシアが近いことを知ったオーストラリアの作家の作品です。木々の間にビニールシートを張り、ビニールシートどうしを垂直に糸で結んだ作品「共鳴」は、森の木の葉がこすれ合う音、森をぬける風の音、虫や鳥の声など自然を捉える巨大な糸電話です。

いずれの作品も森を深く観察し、耳を澄ませ、そこに棲む動植物に敬意が払われています。あなたも森の木漏れ日を受け、森の声を聞き、桂の甘い香りをかぎながら、叢のじゅうたんの上でアートを鑑賞してみませんか。

横浜の森美術展3  入場無料

【展示期間】 8月23日~10月3日 10時~16時

【開催場所】 よこはま動物の森公園予定地(ズーラシア隣接)

【お問い合わせ】 GROUP創造と森の声事務局 Tel. 045-933-1460

http://www.morinokoe.jp